白砂のビーチの上でで筋肉ムキムキ坊主頭の日本人が大きく手を振っている。
僕も大きく手を振り返した。
日本人のほとんど訪れる事のない南の島のビーチで、
再会した友人と瓶ビールを傾ける。素敵な時間。
フィリピンに来るつもりはなかった。
けど、最初の地をここに決めたのは彼がいたこそだ。
いっとき、ひょんな事から一ヶ月合宿みたいな生活を彼と送る事があった。兄気肌のような
性格で、その合宿でも仲間内から慕われていた。実際には僕の2つ下だったので彼は丁寧語を使って
くれていたものの、僕からしたらどちらかというと年上的なポジションだった。
彼はフィリピンのその島のダイビングがひどく気に入っているようで、
何度も通っているようだった。
当初スタート地点を中国にするつもりだったがビザ取得要件が厳しくなっていて、
ビザ取得に労力を厭わず中国入りするか、それともまったく別の国にしてしまうか
迷っていた。フィリピンだとビザは問題無いがリカンベント空輸には相応の手間がかかる。
梱包して飛行機に載せる度に破損のリスクが付きまとう。フィリピンに入ったとしても、
次の国にはまた飛行機に載せなければならない。
フィリピン好きの彼に
「どうしようか?」
と聞いた。もうその問いを言った時点で彼の答えは分かってはいた。けれど、初っ端からの
大幅な路線変更には誰かの後押しが欲しかったのだ。
そして期待通り、
「行っちゃえば?」
と言ってくれた。僕はそれを聞いた5分後にはマニラ行きのEチケット購入をクリックしていた。
そして、彼も僕がフィリピンを旅している間に島へ行く事になったと言う。
その島は僕の走行ルートには入っていない。ダイビングもしない自転車乗りが
そんな小さなリゾート島に用は無い。
けれど、僕の最初のスタートの後押しをしてくれた彼に会う為だけに
小さな島の小さな連絡船に無理やり自転車を詰め込んで行くというのも酔狂で良いじゃないか。
元々酔狂な旅なのだ。
椰子の木の下で、琥珀色のビールと、水平線に沈む赤い夕日。
心行くまで笑う。隣に座る彼も笑う。
酔狂な旅は、続く。