悶える自分を塗りつぶしたいから。

数えてみるとカトマンズには5回も来ているせいで新鮮味はまるでない。ほとんどの日本人の旅人が目当てにする数多くの日本食レストランも、前回の旅以後日本で自炊するようになた僕からするとその味は以前に比べてさほど美味しいとも思えなくなっていた。

 

それでも食事を「栄養補給」や「体調維持」の為だけに食べていたインドに比べると豚のしょうが炒め定食やカツ丼なんかがメニュー表の上を飾る日本食レストランはほっと体の力を抜く事が出来るところだった。

 
 

だが、その気持ちの緩みがなんだか僕の旅をつまらなくしてしまったような気がする。

 

「あんま美味しくないけどコレ食べないと!」

「ビタミン補給の為にリンゴを食べる!」

 

 

カトマンズまでは質素なものしか食べるものが無かった。カレーか不味い焼きそばか。選択肢もほとんど無かった。トイレットペーパー探すだけでも一苦労。モノとサービスに支えられてきた僕ら先進国の人間からすると快適さとは程遠い世界だ。その中を毎日自転車を漕いで進む。毎日、とても張り詰めていたし、その分なんだか充足感があった。

 

カトマンズでは旅行者に必要なものは本当に何もかも揃う。酒が欲しければアサヒスーパードライだって、キャンプ用品欲しければヨーロッパブランドの一流品が全て揃う。なんなら自転車だって有名ブランドのものが買える。フレンチから中華、韓国料理、全て回ろうと思ったら胃袋がいくらあっても足りない。

 

僕は吸わないし、吸う人に嫌悪感すら覚えるがマリファナだって簡単に手に入る。

 

かつての僕はこの街で1ヶ月近く滞在した事がある。とても快適で良い街だと思った。

 

でも今は違う。なぜだろう。それは焦りなのか。

 

長く留まってしまったのはもう10年も前の話だ。当時24歳。

 

そして今。僕は何をしているのだろう。「リカンベントで世界一周をしている」と言うと表向きは「すごいね」と言ってくれる人がほとんどだ。でも当然「その歳で何やってるの?」とか「帰ってからどうするの?」という裏向きの言葉も声に発しないまでも思っているだろうなと感じる。

 
何より自分自身でそう思う。
 
前例が無い故世界を巡るには信頼性の乏しいリカンベントを選んだのも、
 
「すごいね」
 
という表向きの賞賛をより得たいからだ。
それを聞いて、
「自分って凄いことやってる」
と無理やりにでも納得させて、信じ込ませて、
「俺この歳で何やってるの、友人たちはほとんどが定職に就いて家庭を持ってるというのに」
と悶える自分を押さえ込んで、塗りつぶしたいからだ。
 
だから、僕は安楽な一箇所に滞在するという事に罪悪感を感じる。
漕いで、進んで、それしか今の僕には心の平安は無いように思える。
 
またリカンベントに身を預ける日が始まる、心の平安を得る為に

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